一経営者の四方山話

個人的に関心を持っているイシューについて考えたことを書いています。経営、経済、文化、学問など多岐に渡ります。

過大評価と過小評価


行動経済学の祖、ダニエル・カーネマンの提唱した理論の中に「人は低い確率を過大評価し、高い確率を過小評価する」という考え方がある。

「低い確率を過大評価」の例として、宝くじが当たる可能性は極めて低いのに当たると思って買う、とか飛行機事故が発生した後は飛行機利用者が少なくなって、車を利用する人が増える現象がそれにあたる。その結果、2001年9月のアメリカ同時多発テロ事件の後、アメリカ人の多くが民間航空機による移動を避けて自家用車による移動を選択したために、同年の10月から12月までのアメリカでの自動車事故死者数は前年比で千人以上増加したりしている。

人事考課でのバイアスの一つに、「自分ができないことをできる人を過大評価し、自分ができることをできない人を過小評価する」傾向が人間にはあるらしい。なので、私も部下の人事考課の時に、そのことをいつも意識していた。
一方、他の人の人事考課のレポートを読んだ時に気づいたのだが、頭の良い人は「頭の良さ」という尺度を過大評価する傾向にあるように思える。ちなみに、ピーター・ドラッカーは「頭の良さは、成果の上限を規定するだけであり、成果を出す能力とは関係がない」と言っている。確かに頭が多少悪くてもチームとしての成果を立派に出している上司がいた。成果を出す能力と最も相関関係が高いのはコミュニケーション能力ではないか、というのが私の仮説。

シリコンバレーで聞いた格言。「われわれは3年間で起こり得ることを過大評価し、自分たちが10年間でできることを過小評価する。」
ビジネスプランで「我々のイノベーティブな製品は市場を1、2年で席巻するであろう」などという過大評価をする一方、スマホが10年でここまで普及するとは予想していた人は業界でも極めて少数派であったことがその一例。

このように過大評価と過小評価のバイアスは人間にはつきものなので、直せない。だが、その傾向があることを自覚して生きることが大切なんだろうと思う。