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一経営者の四方山話

個人的に関心を持っているイシューについて考えたことを書いています。経営、経済、文化、学問など多岐に渡ります。

マーケティングの考え方の基本

部下と話していてマーケティングの考え方が理解されていないことを感じて、マーケティングの勉強会を定期的に提供している。だいたいこんな誤解を彼らは典型的に持っている。彼らは「"常識的"にはこうでしょう」と言うのだが。

1. ターゲットになる市場は大きければ大きいほど良い。
2. お金をたくさんかけて広告・宣伝をしないと売れない。
3. 機能的に競合商品よりも優れていないと売れない。

以下に、一つ一つ反論してみよう。

1. ターゲットになる市場は大きければ大きいほど良い。
「女性用下着というように市場を限定しないで、男女兼用下着というのを開発して売ると、ターゲット顧客の数が倍になって、事業として成功するよね」と言うのと同じ。そんな商品、誰も(たぶん)欲しがらない。
競合企業に対して戦っていくためには戦略の王道である「差別化」を行いたい。そのことにより、ターゲット層に「刺さる」ものを提案しないといけない。しかしそのターゲットを広げ、かつ刺さる価値提案(value proposition)を行うのは相当難しい。よく「刺さる」提案は限定された人たちへ向けた商品だ。
「今までにそんな切り方なかった!」というように、マスマーケットをもっと細分化して新たな切り口で攻めることもよく行われる。缶コーヒーでも「朝専用」を打ち出してみたり、アシックスのバスケットボールシューズ「ゲルバースト」は高校のバスケ部選手向けに開発されて、成功している。
アサヒフードアンドヘルスケアの栄養調整食品「1本満足バー」シリーズは、大塚製薬の「カロリーメイト」「SOYJOY」という手ごわいライバルがいる中、「夕方からの頑張りに!」をテーマに、男性が残業などの際に小腹を満たすという、他社が攻め切れていないニーズを開拓して成功した。すなわち朝食目的で買うセグメントを見事に捨てている。
マーケティング上の意思決定は「捨てる」勇気が必要だ。

2. お金をたくさんかけて広告・宣伝をしないと売れない。
もしこれが本当なら、世の中、巨大な広告予算を持ってテレビコマーシャルをバンバン出せる大手企業しか生き残れないことになる。実際には、ターゲット顧客にメッセージが届きさえすればいいのだから、ターゲットが床屋のように地域限定である場合もあれば、プラモデルのように、ある趣味を持つ人限定だったりする。したがって、その限定したターゲットに効率よくメッセージを届けさえすればいいわけだ。市場を限定すればするほど、メッセージを伝える相手が具体的かつ「刺さる」メッセージを効率よく伝えることができるのだ。そして市場を限定すればするほど競合企業の数が少なくなっていく。その結果、メッセージを伝えやすいし、説得力を持ってくる。

3. 機能的に競合商品よりも優れていないと売れない。
Louis Vuittonのハンドバッグは機能的にみると、ただの塩化ビニールでできた袋であって、革製よりも機能面では劣る、と言われてもしょうがない。
マーケティングで大切なのはターゲット顧客の「頭の中の戦い」を意識することだ。客観的な違いではなく、ターゲット顧客の頭の中で「違い」を感じさせればいい。私にとってはCoachのハンドバッグもGucciのハンドバッグも機能面での違いを全く感じない。しかしほとんどの女性の「頭の中」では違いが明瞭に存在している。
小林製薬の「熱さまシート」だって、機能的には要するに保冷剤だ。最初出た時は発熱時に子供のおでこを冷やす用途で発売した。この市場では、機能面ではるかに優れた、中に氷や水を入れて使用するゴム製の氷枕(水枕)というのがあった。「熱さまシート」は使い捨てだが、氷枕は何度でも利用可能だ。しかも小林製薬は大人というセグメントは捨てて、子供の発熱用に限定してきた。単純に考えると、ターゲット市場が大幅に小さくなっている。しかし、
売上=商品単価×購入個数×購入回数/年
という方程式で考えると、氷枕は1回しか買わないが、「熱さまシート」は何回も買う消耗品にしてしまい、ターゲット市場を結果的に拡大することに成功している。

要するに、マーケティングというのは、顧客の頭の中の戦いをいかに制するか、ということだ。知恵と工夫でいかようにもなる、ということだ。